化粧品のpH試験は、ラボで行う最も簡単な測定の一つですが、保管中にゆっくり動くpH値は、ほかのどんな数値よりも処方について多くのことを教えてくれます。このガイドでは、pHドリフトが重要な理由、安定性試験でpHをどのように測定するか、そして数十分の一程度の変化が防腐、有効成分、テクスチャーにとって何を意味するかを説明します。安定性試験報告書のどこを見ればよいかが分かります。
目次
結論から
pHは安定性試験の開始時に測定し、各保管条件の全チェックポイントで再び測定します。安定した製品は、規格で定められた範囲内にpHを保ちます。その範囲を外れるドリフトは警告サインです。防腐剤の力が弱まっている、有効成分が分解している、エマルションが弱くなっている、あるいは製品が安全性評価者の評価したバッチと同じように振る舞わなくなっている可能性があります。pHのデータだけで製品の安全性が証明されるわけではありませんが、処方内で何かが変化していることを示す、最も早く最も低コストなシグナルの一つです。
pHから化粧品の何が分かるか
pHは、水を含む製品がどれだけ酸性またはアルカリ性かを0から14の尺度で表したもので、7が中性です。尺度は対数なので、pH 4の製品はpH 5の製品より10倍酸性が強くなります。皮膚表面は弱酸性です。広く引用されている研究では、皮膚表面の自然なpHは約4.7と推定されました。そのため、多くのリーブオンタイプのクリームやローションは弱酸性に設計され、石けんは本来アルカリ性です。
ブランドにとってpHは、何よりも処方の指紋です。酸、塩基、緩衝剤、互いに反応しうる成分のバランスを反映します。そのバランスが変わると、通常は最初にpHが動きます。
pHドリフトとは
pHドリフトとは、時間の経過とともにpHが徐々に変化することで、加速試験でサンプルを高温で保管したときによく見られます。小さな変動は正常で、一部は測定そのものに由来します。注意が必要なのは、一方向への一貫した傾向や、規格外への急な変化です。一般的な規格では目標値±0.5単位程度の範囲が使われますが、適切な幅は製品によって異なり、処方担当者と安全性評価者の間で合意しておく必要があります。

pHドリフトが重要な理由
防腐
一般的な防腐剤の多くは、限られたpH範囲でしか機能しません。安息香酸、ソルビン酸、デヒドロ酢酸などの有機酸は、主に非解離型で有効であり、この形は酸性の製品で優勢です。製品のpHが上がると、濃度は変わらなくてもこれらの防腐剤の効果が大きく失われることがあります。これが、チャレンジテストを意図したpHの製品で行うべき理由であり、保管中にpHが動いた場合に防腐がまだ十分かどうかを問うべき理由です。
有効成分
多くの有効成分はpHに敏感です。たとえばアスコルビン酸は酸化しやすく、一部のエステルは特定のpHで加水分解が速くなります。分解生成物自体が酸性や塩基性であることがあり、成分が分解するにつれてpHが動きます。角質ケア用の酸もpHで性質が決まります。同じ濃度のグリコール酸でも、pH 3.5とpH 4.5では作用がまったく異なります。
テクスチャーとエマルションの安定性
カルボマーなどの増粘剤は、粘度を出すために中和が必要で、一部のガム類や乳化剤はpHや電解質に敏感です。pHがドリフトすると、ジェルが緩くなったり、エマルションが分離したり、色や香りが変わったりすることがあります。
肌への耐容性と法的な限度
pHが非常に低い、または非常に高いと、刺激のリスクが高まることがあります。さらに、規則(EC) No 1223/2009の附属書IIIは、一部の規制対象の用途についてpH条件を定めています。たとえば、pH調整剤として使われる水酸化ナトリウムと水酸化カリウムは、脱毛剤ではpH 12.7、その他の用途では一般にpH 11までに制限されています。こうした限度に依存する製品は、使用期限の間ずっと基準を満たしていることを示すpHデータが必要です。
pHドリフトのよくある原因
- エステル、エモリエント、有効成分の加水分解:酸が放出されます。
- ビタミン、植物エキス、不飽和オイルの酸化。
- 緩衝が弱い、または無い:酸や塩基を一滴加えただけで調整した製品は、変化に抵抗する力がほとんどありません。
- 微生物の増殖:汚染はpHを変えることがあるため、急な変化があれば微生物試験を行う契機にしてください。
- 容器との相互作用:一部のプラスチック、金属チューブ、内面コーティングは、製品と反応したり、二酸化炭素などの気体を通したりすることがあります。
- 原料のばらつき:エキスや界面活性剤の新しいロットが異なるpHで届くことがあります。
安定性試験でのpHの測定方法
- 校正済みのメーター。pHメーターは、想定値を挟む標準緩衝液で、通常は測定当日に校正します。
- 適切な電極。粘度の高いクリームには、粘性サンプルやエマルション用に設計された電極が必要です。標準的なガラス電極では、読み値が不安定になることがあります。
- 直接測定か希釈か。水性製品は直接測定します。一部のエマルションや粉体は、たとえば10%の水希釈液として測定します。どの方法を選んでも、全ての時点で同じでなければなりません。
- 温度管理。pHの読み値は温度に依存するため、オーブンや冷蔵庫から出したサンプルは、測定前に室温に戻します。
- すべての条件、すべてのチェックポイント。pHは開始時と各間隔で、すべての保管条件について、外観、色、香り、粘度、容器の観察結果とともに記録します。
オイルやバームのpHは測れるか
通常の方法では測れません。pHには水が必要だからです。オイル、バーム、口紅、多くの粉体のような無水製品には、意味のあるpHがありません。希釈液や水抽出液は測定できますが、その結果が示すのは製品ではなく混合物です。こうした製品では、外観、香り、融解挙動、酸化の兆候など、ほかの項目のほうが多くのことを教えてくれます。

報告書のpHデータの読み方
単独の値ではなく、傾向を見てください。良い安定性報告書は、各時点と各条件のpHを示しているため、室温、高温、低温で保管したサンプルを比較できます。次の三つを確認します。
- すべての条件でpHは規格内にとどまったか。
- 特に高温で、実際の使用期限の間も続きうる一貫した傾向があるか。
- 色、香り、粘度など、ほかの項目が同時に変化したか。
pHが動いても範囲内であれば、記録して安全性評価者と話し合ってください。範囲を外れた場合は、使用期限やPAOを決める前に原因を突き止めてください。
pHがドリフトしたらどうするか
- 処方が変化に抵抗できるよう、クエン酸塩や乳酸塩の系などの緩衝剤を追加または強化します。
- 抗酸化剤、キレート剤、エアレス容器で敏感な有効成分を保護します。
- 製品が到達しうるpH範囲全体で機能するよう、防腐システムを見直します。
- ガラス容器だけでなく最終容器に入れた状態で試験し、容器を確認します。
- 改良した処方を再試験します。処方が変われば、新しい安定性データと更新された安全性報告書が必要です。
製品ファイルにおけるpHの位置づけ
安全性報告書に関する欧州委員会のガイドラインは、完成品の物理的・化学的特性と安定性に関する情報を求めており、pHは通常報告される項目の一つです。安全性評価者は、これを安定性、微生物、防腐のデータとともに使ってCPSRを作成します。明確なpH規格があれば、バッチの出荷判定も容易になります。新しいバッチをすべて同じ範囲で確認できるからです。
よくある質問
pH試験は法律で義務付けられていますか?
EU化粧品規則はpH試験そのものを定めていませんが、製品情報ファイル(PIF)には製品の物理的・化学的特性と安定性を記載する必要があります。水性製品では、通常pHがその記載の一部となり、一部の規制物質にはpHの限度が直接適用されます。
pHの変化はどの程度なら許容されますか?
法的に一つの数値が決まっているわけではありません。多くのブランドは目標値の±0.5単位程度の範囲を使いますが、適切な許容幅は防腐剤、有効成分、製品の種類によって異なります。
pHが安定していれば、製品も安定していますか?
いいえ。pHは指標の一つにすぎません。pHが保たれていても、分離したり、色が変わったり、容器と相互作用したりすることがあるため、pHは常にほかの安定性項目とあわせて読みます。
重要なポイント
- pHは処方の指紋であり、ドリフトは変化の早期サインです。
- pHの変動は、防腐剤を弱め、有効成分を劣化させ、テクスチャーを緩くすることがあります。
- 全チェックポイントで、校正済みメーター、同じ方法、同じ温度で測定してください。
- 使用期限とPAOを決める前に、規格外のドリフトはすべて原因を調べてください。
